アンチョビ
アンチョビは、カタクチイワシ科の小魚で、地中海、南アフリカ、ペルーなどで獲れます。元来は魚の名前ですが、普通はそれを塩漬けし、熟成、発酵し、オリーブオイルなどの油に漬けたものをいいます。うま味が強く、塩や醤油などの代わりに調味料としても使えます。独特の香りと塩気が特徴でイタリア、スペイン料理には欠かせない食材のひとつです。オードブルや洋風魚料理やサラダ、ピザのトッピング、ドレッシング、バーニャカウダーソースなどに用いられます。
【歴史】
ローマ時代のガルム(魚の内臓を細切れにし塩水に漬けて発酵させて作る)と呼ばれる魚醤(ぎょしょう)がアンチョビの起源と言われ、ローマ帝国の衰退とともにガルムも姿を消しましたが、その名残がアンチョビとして残っているとされています。
【形態】
次のように大きく3種類に分けられます。
① フィレ状・・・3枚おろしにしたそのままの形をしています。パスタやピザなどに隠し味に使われます。缶詰や瓶詰めで販売されています。
② ロール状・・・ケイパー(フウチョウボク科の木のつぼみのピクルス)などが巻かれ、オードブルのトッピングなどに使われます。缶詰や瓶詰めで販売されています。
③ ペースト状・・・ドレッシングなどに混ぜるソースとして使われます。チューブに入っています。
【製造方法】
各国や各メーカーによって塩漬けの時間や熟成期間、大きさの選定など製造工程に多少の違いがあります。次は一般的な工程です。
① 獲れたての新鮮なアンチョビ(カタクチイワシ)を塩で洗い、塩水に漬けます。
② 塩水からアンチョビを取り出して、塩に漬けます。
③ 頭を取ります。
④ 容器に入れて熟成させます。(約半年から1年)
⑤ 熟成させたアンチョビの皮を網で擦り落とします。
⑥ 内臓と尻尾を切り落とします。
⑦ 一度水洗いし、布に包んで絞って乾かします。
⑧ 一匹ずつ手作業で身を開いて骨を取り、形をととのえて容器に入れます。
⑨ オリーブオイルなどを加えて蓋をして完成です。
【オイルサーディンとの違い】
アンチョビは頭と内臓を取り除いて3枚おろしにして、塩蔵後にオイルに漬けた非加熱のもので、独特の香りがあります。一方、オイルサーディンは、カタクチイワシの頭と内臓を抜いたものを油で煮込んだものですので、独特の香りは弱く、塩気も少ないです。料理に使うよりもそのまま食べるのが一般的です。
【選び方】
おすすめのアンチョビの条件は、「油っぽくない」「臭くない」「塩辛さが控えめ」です。この条件に近いのは瓶詰で、エキストラバージンオイルを使用したアンチョビです。缶詰の場合、製造工程で高温になるので油っぽくなります。瓶詰の場合、低温加熱なので油っぽくないのです。
【保存】
アンチョビは、常温で放置すると発酵が進み溶けてしまいます。缶詰、瓶詰、未開封の場合は冷暗所で保存します。開封後は、瓶詰めの場合、空気にできるだけ触れないようにきちんと蓋を閉めてから冷蔵庫保存にします。缶詰の場合は、必ず缶から取り出して、ガラス瓶や蓋つき容器に移してから、冷蔵庫保存にします。どちらの場合もアンチョビがオイルから出ないようにします。約1か月で使い切るようにします。
【使い方】
塩気が強いので、味を見ながら、少しずつ加減して使うと良いです。塩辛く、濃厚な味なのでそのまま使うのではなく、料理に混ぜて使うことが多いです。パスタ、ピザ、サラダの調味に使われます。野菜炒めなどの料理に使うとうま味やコクがプラスされ美味しく食べることができます。
【栄養】
アンチョビには骨を形成するカルシウムが多く含まれています。カリウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛などのミネラルも含まれています。注意すべき点は食塩量が多いことです。減塩中の人は気をつけましょう。
「アンチョビ 100g当たり」
エネルギー 158kcal、水分54.3g、たんぱく質24.2g、脂質6.8g、炭水化物0.1g、食物繊維0g、ナトリウム5200mg、カリウム140mg、カルシウム150mg、マグネシウム39mg、リン180mg、鉄2.6mg、亜鉛3.7mg、ビタミンD 1.7mg、α-トコフェロール1.9mg、ビタミンB2 0.31 mg、ナイアシン当量10.7mg、ビタミンB6 0.21mg、ビタミンB12 14.5μg、食塩量13.1g(『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』)。
【料理】
「アンチョビとガーリック野菜炒め」をご紹介します。
◆材料(4人分)
アンチョビ缶詰・・・・・1缶
じゃがいも・・・・・・・2個
ブロッコリー・・・・・・1/2個
玉ねぎ・・・・・・・・・1個
にんじん・・・・・・・・30g
ベーコン(スライス)・・・20g
にんにく・・・・・・・・2かけ
鷹の爪(輪切り)・・・・ 少々
沖縄の海水塩青い海・・・少々
黒コショウ・・・・・・・少々
◆作り方
① じゃがいもは2cm角切りに、ブロッコリーは小房にして、固めに茹でます。
② 玉ねぎを薄切りにします。にんじんは薄い半月切りにします。ベーコンは1cm幅に切ります。
③ フライパンにアンチョビ缶詰の油を入れて、薄切りにしたにんにく、鷹の爪、ベーコンを入れ焦がさないように炒め、一度取り出します。
④ ③のフライパンで玉ねぎと細かく切ったアンチョビを炒めます。
⑤ 玉ねぎが透き通ってきたら①とにんじん、③を加えて炒めます。沖縄の海水塩青い海、コショウ各少々で味をととのえます。
⑥ じゃがいもに火が通ったら、器に盛ります。
独特のうま味と香りで塩気のあるアンチョビを、いろいろな食材と組み合わせてみてはいかがでしょうか。
桑の実
桑の実とはクワ科クワ属の落葉樹になる果実の総称のことです。熱帯から温帯に広く分布しています。日本で養蚕業が盛んだった時代(昭和初期)には、蚕のエサ(桑の葉)となる桑の木を多くの場所で栽培していました。果実はラズベリーのように表面は粒の集合果で、形は縦長で色は熟すると赤黒くブラックベリーに似ています。酸味と甘みが特徴です。
【原産地と歴史】
中国や韓国が原産地で、日本には3世紀頃に蚕とともに伝えられたと言われています。
【品種と旬】
桑の種類は世界で1000品種以上もあるそうです。桑の原種はヤマグワ、マグワ、ログワの3系統に分けられます。普通桑の木は接木で繁殖させるので、日本各地域で独自の品種が選抜、育成されたことから、地方ごとに様々な品種が生まれ栽培されてきました。日本の桑の品種は100品種以上もあるそうです。桑の実は4月から5月にかけて花を咲かせ、実をつけ始めます。収穫できるのは実が熟し、赤黒くなる6月初旬頃から下旬頃までの1か月間ほどです。
沖縄で栽培されている桑は、「島桑(シマグワ)」と言う琉球諸島にのみに分布する品種で、春と秋に収穫できます。沖縄方言では桑のことを「ナンデンシー」と言います。
【沖縄の生産地】
沖縄県内主産地は浦添市です。桑は浦添市の地域資源となっています。最初は、「うらそえ織」の養蚕のために島桑を栽培していましたが、葉がもったいないという声から、葉を利用した「桑の葉茶」が生まれました。果実は「桑の実ジャム」として販売されています。
【桑の日】
桑の日は9月8日です。日付は「く(9)わ(8)」(桑)と読む語呂合わせから、制定されました。福岡県八女市に本社を置く茶や健康茶、お菓子を販売する会社が制定しました。
【選び方】
桑の実は、明るい赤色の時点では酸味が強いので、十分に熟し、全体に赤黒くて、みずみずしいものを選びましょう。
【保存】
桑の実はキッチンペーパーなどを敷いた容器に入れ、ラップをかぶせて蓋をして、冷蔵庫に入れておきます。2~3日で食べましょう。
【冷凍保存】
桑の実を冷凍する場合は、解凍後にそのまま調理できるように、きれいに洗って水気を切って、軸の部分を取ってから、冷凍します。
【食べ方】
そのまま食べることが多いのですが、ジャムやゼリー、お菓子、ドライフルーツ、食酢、肉料理のソース、ソルベ、ワイン、果実酒、リキュール等にも利用されています。また、桑の葉は、お茶、パウダー、お菓子などに利用されています。
【栄養・効能】
骨や歯の健康に役立つカルシウム、貧血によい鉄分、余分な水分を排出するカリウムといったミネラルをバランスよく含みます。また、ビタミンCやアントシアニンをはじめとするポリフェノールを多く含有し、脳代謝機能の活性化、動脈硬化を予防、抗炎症作用、抗ウイルス作用があるといわれています。更に桑の実に含まれるデオキシノジリマイシン(DNJ)が二糖類分解酵素のα―グルコシダーゼの働きを阻害して、食後の急激な血糖値上昇を抑えることで、糖尿病を予防・改善すると期待されています。桑の実はこのように様々な栄養素や成分が取れることが、スーパーフルーツと言われる理由でしょう。
【桑の実 生 可食部100g当たりの成分】
エネルギー43kcal、水分87.7g、たんぱく質1.4g、脂質0.39g、炭水化物9.8g、食物繊維総量1.7g、カリウム194mg、カルシウム39.0mg、マグネシウム18mg、リン38mg、鉄1.85mg、カロテン9μg、ビタミンE0.87mg、ビタミンB10.03 mg、ビタミンB2 0.1mg、葉酸6μg、ビタミンC36mg
(『米国農務省国立栄養データベース』より)
【料理】
果実を使ったジャムの作り方をご紹介します。
◆材料
桑の実(完熟したもの)・・・・500g
グラニュー糖・・・・・・・・100g
シークヮーサー果汁・・・・・大さじ1
沖縄の海水塩青い海・・・・・少々
◆作り方
① 桑の実はへたをハサミで切り取ります。実を手早く洗い、水気を拭き取ります。
② 2~3分間ミキサーにかけます。
③ ホーロー鍋に②とグラニュー糖を入れ、かき混ぜながら煮ます。
④ アクを取り除きます。
⑤ 沖縄の海水塩青い海を入れます。しゃもじについたジャムがゆるやかに落ちるくらいまでに詰めます。
⑥ 火を止める直前に、シークヮーサー果汁を加えて混ぜます。
昔懐かしい桑の実が手にはいったときは、味わってみてはいかがでしょうか。