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2024.11.01

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「シェフ・オブ・ザ・イヤー沖縄」優勝者・滿尾シェフが語る和食の挑戦

「シェフ・オブ・ザ・イヤー沖縄」優勝者・滿尾シェフが語る和食の挑戦

2024COYインタビュー

2024年「シェフ・オブ・ザ・イヤー・オキナワ」大会で優勝した滿尾シェフ。和食をベースに、独自のアプローチで見事グランプリを勝ち取りました。兵庫県出身でありながら沖縄の調理師学校で活躍する滿尾シェフが語る、和食の魅力とコンクールへの挑戦、そして将来の目標とは?

シママース本舗・屋嘉比元が、インタビューしてみました。

滿尾シェフ

2024年9月沖縄調理師専門学校

屋嘉比: 当日私も現場で皆さんの様子を拝見しました。ものすごい緊張感が伝わってきて、こっちがみぶるいというか、ほんとにドキドキしながらだったなと。審査員の方々とも少しお話ができたりしたんですが、皆さんが一生懸命やってるのがわかるから、なんか点数とか、甲乙つけるみたいなことは難しい。これは美味しいとか、ちょっと違うみたいなことはあるかもしれないけど、点数をつけるってなかなか難しいとおっしゃっていました。

 

滿尾: そのお店にはそのお店の良さがあって、自分のところよりも良いところも悪いところもあったりするので、人によって感じ方が変わるものを審査するというのは難しいなと思います。

 

屋嘉比: 今回、審査内容の詳細の部分は本人にはお伝えされないんですよね。優勝したのは、どういうところを評価されたんだろうって、ご自身で思ってることはありますか。

 

滿尾: そうですね、今回はいろんな要素が絡んでると思うんですけど、やっぱり和食の中にも、洋食の技術や中華の技術を取り入れて落とし込んでいたっていうところはよかったんじゃないかなと思いました。

 

屋嘉比: 実は、前回大会に出場した料理人の友人がいて、大会が終わってすぐに滿尾シェフや皆さんの料理の写真を撮って、結果こうだったよって送ったんですよ。で、そしたら、「和食の方が優勝したんだ!」って。うん、ちょっと驚いてて。彼も、どっちかというとフレンチの料理人ですけど、和食の方が優勝するのはちょっと難しいのかなって思ってたって。なぜか?っていうのは聞けなかったんですけど、なんかそこって(思い至る点が)ありますか。

 

滿尾: コンクールの形式がどうしても西洋料理的な良さが目立ちやすいのかなあと感じます。これはシェフオブザイヤーだけではなくて、他のコンクールとかを見てもそうですが。

 

屋嘉比: こういう大きなコンクールは、基本的に洋食にフォーカスされてるということですかね。今回の決勝戦もやっぱり前菜・メイン・デザート、基本的にはコースの流れですよね。

 

滿尾: はい。和食のコースは流れで1つの作品になるので、その辺がやっぱり(洋食とは違う)。単品で出しても、洋食の華やかさにはちょっと見劣りするんじゃないかなっていうのもありました。

 

屋嘉比: 去年の出場者の反省として、やりたいことが多すぎて、色々やってしまったと。その結果、中途半端になってしまったっていうような話を耳にしたんです。勝手なイメージですけど、ある意味(洋食は)そういうことを色々やれてしまうのだろうなと。一方で、和食って、なんとなく引き算の美学みたいな、それがシンプルに審査員の方々に良さとして伝わったのかなっていう印象はちょっとあります。

 

滿尾: コンクールはやっぱり引き算の考え方も必要になるのかなあと思います。この食材をこういう料理にしたい。こういう美味しさを味わってもらいたいというコンセプトができたとして、今度はこれをコンクールの制限の中で実現できるかどうかの確認作業が必要。(その結果、)余分なものを取り除いて、時間内に間に合うように仕上げていくっていう引き算が必要になります。

 
決勝の様子
 

屋嘉比: 自分の技術もふんだんに出さないといけない一方で、そういう引き算をしながらというのは、本当に想像以上に大変だなと感じるところです。少し前後しますが、改めて滿尾シェフの経歴についても教えてください。そもそも、どこのご出身ですか?

 

滿尾: 出身は兵庫県なんです。

 

屋嘉比: 兵庫なんですか。料理人を志して、沖縄調理師専門学校に就職される経緯もお聞かせいただけたらなと思うんですけども。

 

滿尾: はい。兵庫県の高砂市っていう、何もない田舎の町の出身で。高校卒業して、消防士になるか調理師になるか、進路に迷ったんですね、父が消防士だったので。ちっちゃい時の思い出があって、祖母、母がすごい料理好きで。料理を作ってる姿とか、食べるのが好きで。やっぱりそんな楽しいイメージが(調理師という)職業にあって。

 

屋嘉比: ご家族はプロの方ではなかったんですか?

 

滿尾: いえいえ、違います。普通です。それで、料理は楽しそうだなと思い、調理師になることを決意して、辻調理師専門学校に入学し、料理の道を歩むことになりました。

 

屋嘉比: 専門学校を卒業されて、すぐ、こちらですか。

 

滿尾: 卒業後は、神戸吉兆で修行しました。修行期間を5年と決めていたので、その後のステップを考えていた時に、沖縄調理師専門学校での講師のお話をいただき、就職することになりました。

 

屋嘉比: お店で修行をして、そのあとに調理師学校に講師として就職されるっていうのは、キャリア的には珍しくありませんか。

 

滿尾: かもしれません(笑)

 

屋嘉比: ですよね。結構長く料理人としてやられた後に、講師に転身されるとかって、なんとなくイメージとしてはあったんですけど、まだお若い中で、そういう風に考えるのは珍しいなと。

 

滿尾: 実は40歳でお店を出したい(と考えており)、そこに向けて、修行して調理師として基本を身につけたあとに、今度は(自分の店の)従業員を育てるための教える力が必要だと考えました。料理に関しても、専門学校だったら、和食・洋食・中華、どんな分野の先生もいる。それで、専門学校がいいということで。

 

屋嘉比: 失礼ですけれど、今おいくつでいらっしゃいますか。

 

滿尾: 37です。

 

屋嘉比: じゃあ、(目標の40歳まで)あと3年。

 

滿尾: はい。リミットというか、目標です。

 
柔和な笑顔が印象的な滿尾シェフ
 

屋嘉比: お話をうかがっていて、自分の中の信念が強くあるんじゃないかという印象をうけました。そもそも今回、シェフオブザイヤーオキナワに出ようと思ったきっかけみたいなところも含めて、お話聞かせていただけますか。

 

滿尾: 実技の時間をもっと取りたいという想いがありました。普段、学生に教える料理とは別に自分自身の技術向上というものに関して、もっとチャレンジしたかった。調理師会のコンテストに出たりはしていたんですけども展示評価なので、自分が作った料理の味を評価してもらえるコンクールはあまりなかったので、(味を評価される)シェフオブザイヤーオキナワでチャレンジしたいなと思いました。

 

屋嘉比: そうして出場して最終的にグランプリを獲得したというのはどんな感じですか。

 

滿尾: そうですね。正直、準決勝に残る8人に残れたらいいなって、そこが目標でした。

    

屋嘉比: なるほど。

 

滿尾: 準決勝に残れたことは本当に嬉しかったです。今年の目標は達成できたと感じ、一旦満足していました。残ったシェフの顔ぶれもすごかったですし、キャリアもすごいですし、この中で勝つのはすごい難しいなと思っていて。決勝に関しては、残れるっていう前提がなかったのでノープランだったから、そこからはもう「うわ、しまった、どうするかな」という感じです。(笑)

 

屋嘉比: ほんとに想定してなかったんですね(笑)

 

滿尾: はい。そこからが1番こう、地獄の日々で。また、学校の広報もしているので、仕事や出張が被ってしまって、練習時間の確保とか、そういうのもやっぱり苦心しました。

 

屋嘉比: 決勝の涙は僕らもぐっとくるものがあったなと思って。そういう苦労があってのことだったんですね。出場者の方々もそれぞれ自分の本業をやられながら練習とか、食材確保とかも含めて行うわけですよね。練習では食材もたくさん使うと思いますが、(大会側から)全部支給されるわけじゃないと思いますし。大変ですよね。

 

滿尾: はい。実技の部分で不安があるというところからスタートしたとおっしゃってはいましたけれども、振り返ってみて、調理師学校での講師経験が今回のコンクールにいきたことってあったりしますか。

 

滿尾: ありますね。やっぱり学校で教えることで、洋食の先生方の料理を見たりとか、中華の先生の技術を見たりとかができました。こういう技術があるんだ、こういうやり方あるんだ、こういう食材の捉え方があるんだっていうのはやっぱり勉強になっていたので。やっぱりこの学校に来て正解だったのかなっていうのはあります。はい。

 

屋嘉比: 自分の専門以外の方の料理とか、技法とか、お話とかって、やっぱりためになるもんですか。

 

滿尾: なりますね。自分の中だけで完結していたら新たな発想は出てこないです。元々、自分は不器用なタイプなので。自分の中だけでやってたら、なかなかこの結果はもらえなかったんじゃないかなと思います。

 

屋嘉比: 今回の食材について、シェフオブザイヤーオキナワということもあり、沖縄のものを使うというテーマに取り組んでみて、いかがでしたか。

 

滿尾: 沖縄の食材は県外の食材とも全然違うし、個性も強い食材が多いので、それをどう和食に落とし込んでいくかで悩みました。特に和食は味付けもシンプルで、その食材の持ってるものがダイレクトに料理に出てしまうので、余分なところはできるだけ削いで、いいところを出してっていう落としどころはすごい難しかったです。

 

屋嘉比: 決勝の料理の中で、どの指定食材が1番難しかったとかありますか。

 
   

滿尾: 特にゴーヤーをデザートに使うのが特に難しかったですね。苦みを消してしまったらゴーヤーじゃなくなるし、逆に残りすぎても、嫌なイメージになるので。

 

屋嘉比: そうですよね。苦みを消しても青臭さは多分残ると思いますし、難しいですよね。

 

滿尾: そんな苦労が多い中でグランプリを受賞して、学生さんたちとか、いつも一緒に働いてる皆さんからはどういうリアクションでしたか。

 

滿尾: 「おめでとう」という声をたくさんもらいました。生徒たちがどう感じてくれたかは…(笑) あまり感情を表に出さない子も多いので、そのあたりは分からない部分もありますね。

 

屋嘉比: でも、やっぱり誇りに思ってくれたんじゃないですか。

 

滿尾: はい。たぶん(笑)

 

屋嘉比: さきほど40歳という目標の年齢まであと3年という話題が挙がりました。もちろんその通りに必ずっていうわけではないかもしれないのですが、今回、コンクールで優勝したことによって、今後のキャリアが変わるだとか、もしくは、もっと進むだとか、変化ってありますか。

 

滿尾: そうですね。目標に向けて出場した大会だったので、そこに関してはブレないと思っています。ただ、この大会を通じて、食材の見方や表現方法について新しい学びがありました。それは今後の仕事にも活かせると感じています。

 
賞味会の様子
 

屋嘉比: 決勝のメンバーだけでなくてもいいとは思うのですが、いろんな料理人の方々と交流とかコミュニケーションや大会での姿でなにか印象に残ったことはありますか。

 

滿尾: 人に関しては、印象深いエピソードが沢山あります。待合室で話す時間が結構あったので、「シェフが作った料理、これはどういう風にやってるんですか。」って聞いたりもしました。それで、聞いたことを取り入れることもありました。

 

屋嘉比: えー、そうなんですね!確かに、タイプ的には滿尾先生は話しかけにいきそうですね(笑)

 

滿尾: はい(笑) やっぱり沖縄調理師専門学校の卒業生やお世話になってる先輩たちも多いので、そういう話で繋がることがあります。コロナの件があって以後、外食しない方も増えたと思います。自分たちのような料理人を、(子ども達が)目にする機会ってすごく少なくなったと思うんですね。若い子たちの目指す仕事としてはやっぱり看護だったりとか、医療関係だったりとかが増えたと思います。そんななかで、自分たちの姿を見てもらう機会を増やすことが子ども達の将来の選択肢に入っていくことに繋がるのかなと思います。

 

屋嘉比: そういった中で、シェフオブザイヤーオキナワというのは、すごくいい機会だったんじゃないかなとは思いますね。

 

滿尾: このコンクールはまだ始まって2回目で、認知度もこれからだと思いますが、私たち料理人の仕事のかっこいい面を多くの人に見てもらえる機会になればと期待しています。

 

屋嘉比: 見ている側にも、大会に出ていらっしゃる方々の覚悟みたいなものもすごく伝わってきていました。「出ない」っていう選択肢も全然あるじゃないですか。自分でお店を持たれていたり、料理長とか副料理長、講師までされていたりする方は出場すること自体にリスクもあるような中で、覚悟を持って出場するという姿勢をすごく感じるし、自分のプライドをかけた色々な思いが伝わってくるので、感銘受けているところもあります。

 

滿尾: 自分は他のシェフと比べて現場経験に不足を感じる部分もありました。そのため、リスクはあるにしても、大会から得られるすべてを吸収したいと考えていました。

    

屋嘉比: 当社のお塩についても聞かせてください。沖縄調理師専門学校でもこう使っていただいてるという風にお聞きしてるんですけど、うちのお塩に対する印象をどう感じながら使ってらっしゃいますか。

 

滿尾: そもそも塩は扱いがすごく難しくて、入れすぎちゃうとりもう食べれないし、少なすぎても美味しくないし、(ほかの調味料に比べて) 塩のちょうどいいポイントって結構狭いんです。その点、シママース本舗の塩のような、しょっぱさ以外にも旨味のある塩っていうのは、ちょうどいいポイントが広くなるんですね。そういう意味で、とても使いやすいと思います。あと、塩味に角がないというか、ニュアンスをうまく説明できないのですが、ちょっと柔らかい印象があります。魚を締める時も、うまく水分を引き出しやすいという特徴もあると思います。

 

屋嘉比: なるほど。ありがとうございます。うちもいろいろな料理人の方に塩の感想をうかがっていくなかで、「ミネラルたくさん入ってるやつですか。ミネラルが多すぎると調理塩としてはちょっと難しいんですよね。」と言われることがあって。うちの塩はミネラルが特段多いというわけではなく、味のバランスをうまくとっているものではあるのですが、ミネラルに準じてどのお塩がいいとか、悪いとかではなくて使い方や使う場面、そこにフィットするのが大事なんだと思いました。

 

滿尾: はい。ミネラル分が多すぎると、他の食材と組み合わさった時に、邪魔になる場合もあるので、自分が目指したい味に対して、どの塩がいいか試行錯誤するので、必ずしもミネラルが多いからオッケーってわけでもないと思います。

 

屋嘉比: ほんと、なかなか奥が深いものがありますね。それこそ和食なのか洋食なのかとかでも印象は変わるんですよね、きっと。

 

滿尾: そうだと思います。和食の出汁は基本的に昆布と鰹節、海産物由来のものなので、やっぱり海のものと相性がいいんじゃないかなと自分は思っています。

 

屋嘉比: なるほど。本当に勉強になりました。滿尾先生のお人柄も含めて知ることができたので余計にファンになりました。本日はありがとうございました。

聞き手の紹介

 

シママース本舗 (株式会社青い海) 専務取締役

屋嘉比元 ‐ やかび はじめ

シママース本舗50周年に際し新商品開発やリブランディングなどを積極的に展開

社会人としてのファーストキャリアは高校教諭

 
 
 
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